南部鉄器のフライパンに人生を狂わされた女の記録

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南部鉄器のフライパンに人生を狂わされた女の記録

※登場人物は全て仮名です。

全ての始まりは、あのインスタ投稿だった

32歳、独身、料理歴12年の私が南部鉄器のフライパンを知ったのは、フォローしている料理アカウントの投稿でした。

「このフライパンで焼いたステーキ、今までと次元が違う」

写真には、黒光りする重厚なフライパンと、焼き目の美しい肉。

コメント欄には「南部鉄器いいですよね」「私も愛用してます」の嵐。

気になって検索すると、価格は3万円から5万円。

フライパンに5万円。

正気か、と思いました。

でも翌日、会社の後輩が「先輩、ふるさと納税で南部鉄器買えるの知ってます?」と話しかけてきたんです。

「実質2000円の負担で、3万円とか4万円のフライパンが手に入るんですよ。一生モノだし、絶対お得じゃないですか」

ああ、そういうことか。

ふるさと納税なら、税金の控除を使って賢く手に入る。

食べ物は消えるけど、道具は残る。

その日の夜、私はふるさと納税サイトで「南部鉄器 フライパン」と検索していました。

24cmフライパンが届いた日、私の料理人生が変わった

岩手県盛岡市から届いた段ボールを開けると、ずっしりとした重み。

重量1.5kg。

持ち上げた瞬間、これは本物だと確信しました。

テフロンのフライパンとは明らかに違う、鉄の塊としての存在感。

早速、目玉焼きを焼いてみました。

中火で熱して、油をなじませて、卵を割り入れる。

ジュワーッという音が、いつもと違う。

白身がフライパンに吸い付くように広がって、縁がカリッと焼けていく。

黄身はとろとろのまま。

一口食べて、声が出ました。

「うまい」

いや、卵は同じスーパーの特売品です。

でも、焼き方でこんなに変わるのか。

南部鉄器、恐るべし。

1週間後、私は南部鉄器中毒になっていた

朝はベーコンエッグ、昼は残り物の野菜炒め、夜はステーキ。

全て南部鉄器で焼く。

焼き色がきれいに入るから、写真映えもいい。

InstagramとTwitterに投稿すると、いいねが普段の3倍つきました。

「そのフライパン何ですか?」というDMも5件。

得意げに「南部鉄器です、ふるさと納税で買いました」と返信。

でも、問題はここからでした。

南部鉄器のフライパンは、使った後に洗って、水気を飛ばして、薄く油を塗る必要があります。

これを怠ると錆びる。

最初は丁寧にやっていました。

でもある日、疲れて帰宅して、ハンバーグを焼いた後、洗わずに寝てしまったんです。

翌朝、フライパンを見て絶句しました。

茶色い斑点が、3箇所。

錆です。

錆びた南部鉄器を前に、私は泣いた

ネットで必死に「南部鉄器 錆 落とし方」を検索。

クレンザーでこすって、空焚きして、油を塗り直す。

1時間かけて復活させましたが、ショックは大きかった。

「こんな手間かかるなら、テフロンでよくない?」

一瞬、そう思いました。

でも次の日の朝、また南部鉄器で目玉焼きを焼いている自分がいました。

なぜか。

答えは簡単で、やっぱり美味しいから。

テフロンに戻れなくなっていたんです。

南部鉄器で焼いた料理の味を知ってしまった以上、もう後戻りできない。

これが沼か、と思いました。

さらなる沼へ、28cm深型フライパンを追加購入

1ヶ月後、私は再びふるさと納税サイトを開いていました。

今度は28cmの深型フライパン。

理由は「炒め物がもっと上手に作りたい」から。

24cmだと、野菜炒めを作るときに具材があふれそうになるんです。

深型なら煽っても大丈夫。

奥州市の返礼品で、3万5000円相当のフライパンを申し込みました。

届いたとき、さらに重い。

2.2kg。

片手で持つと、腕がプルプルします。

でも、これで本格的な中華料理も作れる。

鶏肉とカシューナッツの炒め物を作ったら、まるで中華料理店の味。

高温でサッと炒めると、野菜がシャキシャキのまま仕上がる。

南部鉄器の蓄熱性が、火力の弱い家庭用コンロを補ってくれるんです。

もう止まらない。

友人に勧めたら、ドン引きされた

週末、友人とランチをしていたときのこと。

話題がふるさと納税になりました。

「今年何頼む?」

私は得意げに答えました。

「南部鉄器のフライパン。もう2つ持ってるけど、今度はダッチオーブンも狙ってる」

友人は箸を止めて、私を見ました。

「フライパン2つって、普通1つで足りない?」

「サイズ違いで使い分けるんだよ。24cmは卵料理、28cmは炒め物」

「でもさ、洗うの大変じゃん。テフロンなら水でサッと流すだけなのに」

「確かに手間はかかるけど、味が全然違うから」

友人は少し困った顔をして、こう言いました。

「それ、沼にハマってない?」

図星でした。

南部鉄器を愛する仲間と出会った

でも、私は間違っていなかった。

Twitterで「南部鉄器愛好会」というアカウントを見つけて、フォローしました。

そこには、私と同じように南部鉄器にハマった人たちがいました。

「今日は南部鉄器でパエリア作った」

「ダッチオーブンでローストチキン焼いたら最高だった」

「錆びたけど復活させた、愛が深まる」

みんな、手間を楽しんでいる。

道具を育てる感覚を、共有している。

私だけじゃなかった。

そう思ったら、なんだか嬉しくなりました。

南部鉄器のフライパンは、ただの調理器具じゃない。

使うほど油がなじんで、焦げ付きにくくなっていく。

10年、20年と使い込んで、自分だけの一生モノに育てていく。

その過程が、楽しいんです。

今年のふるさと納税は、ダッチオーブンに決めた

12月になり、ふるさと納税の締め切りが近づいてきました。

私は迷わず、南部鉄器のダッチオーブンを申し込みました。

これで無水カレーが作れる。

ローストビーフも焼ける。

重量4kg、返礼品の金額は5万円相当。

届くのは来年の1月末ですが、今から楽しみで仕方ありません。

友人には「もう病気だね」と笑われましたが、構いません。

南部鉄器のフライパンに人生を狂わされた女、それが私です。

でも、料理が今までで一番楽しい。

それだけで、十分じゃないですか。

来年の今頃、私はダッチオーブンで作った料理をSNSに投稿しているはずです。

そしてまた、誰かを南部鉄器の沼に引きずり込むんだろうな。

 

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